Nozomi Nishizawa

Nozomi Nishizawa

研究テーマ

私の研究テーマは 光の偏光特性を用いた生体評価技術の確立 です。
Nishizawa's Research 光の振動面が揃って回転しながら進行する光を円偏光と呼びます。 この円偏光を生体組織に照射すると内部で主に細胞核によって散乱され、徐々に偏光が減衰(偏光解消)します(右図)が、この散乱光の偏光解消の度合いを計測することで組織内の細胞核の大きさや密度などの差異を検出することができます。 この「円偏光散乱法」とよばれる生体評価技術は前がん病変や隣接する生体組織の差異などの検出に有効であることは1970年代から示唆されてきましたが、長らく円偏光を照射、検出できる小型の光源素子が開発できなかったためにこの技術の発展は非常に限定的なものに留まっていました。 私は2017年に強磁性体を電極としたLED素子(Spin-LED)からの100%円偏光発光を実証し、円偏光光源の実用化に活路を拓きました。 内視鏡の先端などにこのSpin-LEDを元にした円偏光発光素子や検出素子を集積、搭載することができれば、円偏光散乱法によって生体内での新たなその場観察・評価技術が開発できると考えられます。 私はこの技術の確立を目指して、
  1. (1) 円偏光散乱現象の理論的解析

  2. (2) 円偏光散乱現象による生体評価の実験的実証

  3. (3) 円偏光素子(スピンフォトニクス素子)の開発

という3つの観点から研究を進め、最終的には、それを収斂して
  1. (4) 生体評価デバイスの開発

を目指しています。
Nishizawa's Research

(1) 円偏光散乱現象の理論的解析

Nishizawa's Research シミュレーションを用いて円偏光の散乱現象に対する理解を深め、(2)実験的検証で得られた結果の解析や(3)デバイス開発の目標値の設定、本技術の適用範囲の検証を行い、(4)生体観察デバイスのデザインにつなげます。
一つの粒子に対する円偏光の散乱現象をシミュレーション上で再現し、それを多重散乱モデルに導入したモンテカルロシミュレーションを構築することで、生体組織の様々なパラメーター(細胞核の形状、光学係数)や光学配置、照射光の波長などに対する応答を調査しています。 また、早期胃がんやスキルス胃がん、潰瘍性大腸炎など様々な病変に対する有効性を理論的に検証しています。
関連論文
  • "Monte Carlo simulation of scattered circularly polarized light in biological tissues for detection technique of abnormal tissues using spin-polarized light emitting diodes"
    JJAP, 59(SE), SEEG03 (2020).

(2) 円偏光散乱現象による生体評価の実験的実証

Nishizawa's Research 生体模型および生体組織に対して円偏光を照射し、その散乱光を検出、評価することにより生体組織評価の実証を行っています。
生体模型では、実際の生体組織では複雑となる各種のパラメータを個別に抽出し、それぞれの寄与を検証することができます。生体模型はフォトリソグラフィなどの微細加工技術を駆使して系統的にパラメータを変化させて作製しています。 また、生物学および医学系研究者との共同研究により各種病変の生体組織を準備し、その円偏光応答の検証を行っています。光学系には入射角や検出角を自在に変化させることができるダブルアーム回転型検出装置を構築し、その上に光源と検出器を設置することで系統的な光学配置依存性を検証しています。
関連論文

(3) 円偏光素子(スピンフォトニクス素子)の開発

Nishizawa's Research 通常の半導体LED構造上に強磁性体の電極を設置し、磁性体中からスピンの揃った電子を注入すると発光再結合を介して、電子のスピン角運動量が光に転写してスピン角運動量を持った光、すなわち円偏光を発光します。この素子はSpin-LEDと呼ばれます。 私の所属している東工大のグループでは、これまでSpin-LEDの実用化研究を進めてきており、近年までに、室温で高い円偏光度の発光や円偏光極性(左右回り)の電気的な切り替え、円偏光の検出などを実証してきました。円偏光の受光素子(Spin-Photodiode;Spni-PD)を含めてこれらのデバイスをスピンフォトニクスデバイスと呼んでいます。 円偏光は光ファイバーなどを介した伝送が難しいという特性がありますが、スピンフォトニクスデバイスを用いれば生体内という限られた環境内においても円偏光の照射、制御、検出が可能となります。 上記の円偏光散乱による生体評価技術を融合することで、生体内で新たな評価技術の開発が可能です。 生体用に用いるためには、これまで実証されてきた機能性を生体評価に適した方向に発展させる必要があります。 具体的には生体応答性の高い赤色領域の円偏光発光の実証や検出感度向上のための偏光極性の高速変調などが求められ、それらを目指した開発を進めています。 関連論文 関連特許
  • 「円偏光発光ダイオード」(特開2020-136576)
  • 「磁壁移動型スピン発光素子」(特開2015-41690)
  • 「デュアル電極型スピン発光ダイオード及びレーザー」(特開2014-120692)

(4) 生体評価デバイスの開発

Nishizawa's Research 上記の研究を収斂して生体観察用円偏光集積デバイスを開発します。
これまでの研究で散乱光の出射角に応じて散乱領域の深さが変化することが明らかとなっています。これを利用すれば、組織中の深さ方向の組織分布を知ることができます。 そこで、出射角(検出角)の異なる光を同時に検出できるデバイス構造をデザインし、特許を取得しました(右図)。 この構造では、放物面鏡を用いることで出射角の異なる光を個別の検出器で検出することができます。 現在はこのデザインの10倍模型を作製して機能の実証を行っています。 関連特許
  • 「内視鏡先端装置」 (特許第7352251号)
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